ずっと以前、まだボイストレーナーとして仕事を始めて2年目くらいの頃だったと思います。
私のところへものすごいハスキーボイスの女性が生徒さんとしていらっしゃいました。
彼女は思うように自分の声をコントロールできていなくて、歌を歌うとどうしても音程が暴れてしまうのが悩み。
でもむちゃくちゃかっこいい声!!!
きちんとボイストレーニングを積んでコントロール力を身につければ強力な個性として光る事は確実!!!
昔からハスキーボイスに憧れて、学生時代に何度もわざと声を枯らしたりしていた私から見たらすごくうらやましい!
(あ、私がわざと声を枯らしてたのはまだきちんとボイストレーニングを習い始める前の話ですよ。良い子は真似しないように^^;)
でも彼女、そんな自分の声が大嫌いなんですね。
小さい頃からその声のせいでいじめられたと。
えー!私はその声欲しくてたまらないのに!?
彼女の口から出た言葉。
「女の子らしい高くて透き通った声になりたいんです」
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そんな折、今度は高くて透き通った声の女性が。
すごいきれいな声!今井美樹さんの曲を歌った彼女の声に思わずうっとり。
でもね、言うんですよ。
「私、自分の声が嫌いなんです。もっと太くてかっこいい声でロックを歌いたい」
うーん、世の中、なかなかうまく行かないもんだな。
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それから数ヶ月後。
別の生徒さんから相談を受けました。
彼女はちょっとぽっちゃりさん。
当時つとめていたスクールのカリキュラムにグループレッスンで二人一組になってするワークがあったのですがそれが嫌でたまらないと。
「私、太ってるから、絶対に相手の人、いやがってる筈なんです。」
「昔からそれが原因でいじめられてたんです」
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ちょうど次の日。
今度いらしたのはモデルさんのようなスレンダーな体型の生徒さん。
足がスラッと長くてパンツスタイルが決まっている。
思わず、「かっこいいね!モデルさんみたい!」
うらやましくて言ってしまった。
次の瞬間、彼女の表情が変わった。
「それ、どういう意味ですか?」
「え?いや、スタイルいいなって思って…」
「何なんですか?私、その言葉、すごい傷つくんです!私、好きで痩せてるんじゃないんです!子供の頃から心臓悪くて太りたくても太れないんです!!!それなのにみんなスタイルいいとかうらやましいとかって!!!人の気も知らないで!!!」
ものすごい剣幕だった…。
びっくりした。
もちろん彼女を傷つけるつもりではなかったので傷つけてしまった事に対してきちんと謝った。
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その夜、ずーっと考えていた。
みんな入れ替われたら幸せなのにな…。
ハスキーボイスの彼女と透明な声の彼女。
ぽっちゃりさんとスレンダーさん。
あ、せっかくなら私もハスキーボイスに生まれてたら…
そしたらみんな、願いが叶うのに…。
…
あれ?
でも待てよ???
もし、彼女達が本当に入れ替われたとして、それぞれの人生を生まれた時からたどって来たら…。
あれ?
もしハスキーボイスの彼女が元々高く透明感のある声で生まれてたら???
もし、スレンダーな彼女が元々ぽっちゃり体型で生まれてたら???
そして、まるっきり同じ人生を歩んで来たら???
もし、私が最初からハスキーボイスの彼女の人生を歩んで来たら???
そしたら、人生に満足するんだろうか???
ん?????
もしかしてまるっきり同じ事を言うんじゃないだろうか???
「この声嫌いなんです」
「好きでこの体型なんじゃないんです」って。
あれ?????
あれれれれ?????
(次回に続く)